WB金融経済研究所


WB金融経済研究所 <活動報告011> PDF版(100KB)

令和元年12月27日

2019年末の経済政策論議への感想


.日本経済の現状に対する政府の判断と政策
 筆者は毎月、内閣府(昔の経企庁内国調査課、課長は昔から腕利きのエコノミストとして有名)月例経済報告に目を通させてもらっているが、この2年間程、毎月「経済は緩やかに回復している」の判断が続き、先行きも米中の貿易摩擦が第一段階的な合意で収まり、欧州のBrexitも離脱が確定したことにより、従来更なる混乱が心配されてきた海外リスクも沈静化したので、この判断(適温経済)を揺るがすような状況は生じないとされている。
 そもそもわが国のこのような適温経済も、日銀による異次元の金融政策に下支えされて実現しているものだが、その上令和元年末には、令和二年度の財政から突如として、災害復旧プラス国土強靭化とソサエティ5GやSDGs実現に向けたイノベーション投資の支援などで、規模26兆円もの予算支出が打ち出され、アベノミクス全開の展開となっている。
 このような政府の景況判断と政策展開に対しては異論を唱える向きも当然ある。第一に、適温経済継続については、これまでの動きの中で雇用が堅調で、それが消費を支えてきたが、最近やゝ製造業の雇用情勢が緩んできているので、それが消費を下押しし、景気後退の要因となるのではとの警戒が説かれる。そして、このような論議は、株価や不動産価格がバブル気味なので、このような景気後退が一瞬でも見られると一挙に崩落する恐れありとして、警鐘を鳴らすのである。
 第二に、日銀による異次元の金融緩和は、2%程度の物価上昇を目的としているが、7年もこの政策を続けても物価の動向に目的実現への兆しすら認められないことから、金融緩和により資金需要が刺戟されるとの政策の前提に認識の誤りがあるのではないかと指摘する。
 第三に今回の大規模な財政出動に対する疑念である。まず、一方で経済は緩やかに回復しつつあるとの判断を提示しながら、他方で景気対策的な予算を提案するのは矛盾ではないかとする見解である。また、災害復旧と国土強靭化やソサエティ5Gのためのイノベーション支援は、短期的な経済対策として取られるべきではなく、前者はもっと一時的な補正予算の対象であり、後者は逆に本予算でもっと確っかりした検討のうえで対応すべきものと批判する。

.感想
 上記の一については、製造業の雇用も基本的には生産労働力人口の減少をにらんでいるので、一時的な緩みはそれほど大きな問題ではないとする見解に与してよいと思われる。ただ、株価と不動産価格については、警戒すべきレベルに達していることも事実であるので警戒は当然と思われる。
 上記の二については、外国の学界ではアマゾンなど、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が物価を押し下げる役割を演じているなどの分析結果が出ているとのことである。また、デジタル技術に能力ある者とそうでない者との間で所得格差が明確になっているとの指摘もされているとのことである。そうであれば、わが国でもできるだけ早くこの面の研究を進めることにより、旧態依然たる経済状況判断を改める必要を痛感するところである。
なお、筆者はいわゆる就職氷河期の時期に雇用の確保に対する責任者の立場にあり、最近該当者に対し支援の手が差し延べられることに感謝をしている者であるが、この救済の手立てが広範かつ長期に続くことを祈っている次第である。
 上記の三については筆者はこれら論者の指摘の外に、リフレ論者あるいはMMT論者の影響を感じるのである。つまり、最近リフレ論者が臆面もなく物価のためには金融緩和だけでなく財政も拡大すべきとの主張をするのだが、今回の政策が彼らの主張を実現しようとしているもので、結局はわが国をMMT論者の議論の実証実験の場にしようとしているのではないかと思われるのである。
(了)


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