WB金融経済研究所


WB金融経済研究所 <活動報告008> PDF版(132KB)

平成28年12月22日

2016年末国内外の政治経済情勢


1.米国
イ.  筆者は、6月28日のある勉強会でトランプ勝利の予想を明言した。筆者の予想の根拠は単純で、米国が内政外交ともうまくいっていないのであれば、現状維持を主張するのと現状打破を主張するのとでは、後者に分があるというものだ。それに選挙では、候補者の情熱量が大切であり、どうしても現状打破の主張の方が熱量は高くなるということである。
ロ.  最近はトランプ氏の人事が徐々に発表され、その人選の際立った特徴が注目されている。軍人出身とウォール街出身が多いことがそれだ。裏返せば、米国の主要人事に従来特徴的だった弁護士、高級官僚、シンクタンクに身を寄せている待機者、大学教授を登用しないことで、これはレーガン政権のベーカー元財務長官の予想(共和党主流が取り巻く)とも異なっている。
 トランプ氏にとっては従来の政権担当者の「知性」が評価されるべきなら、米国の地盤沈下はなかったはず、それよりも個々具体的な問題を解決に導く知識と、リスクを取った経験の方が大切との考え方なのであろう。
ハ.  トランプ氏の経済政策面で筆者が注目する点の1つは、10年間で4〜5兆ドルの減税と1兆ドルのインフラ投資を掲げていることだ。これは、最近の共和党政権(民主党政権も)が景気対策、成長政策において財政政策は放棄し、専ら金融政策、民間活力によるべしとしてきたことからの大転換であり、世界の政策にも影響を与えるのではないか。
 2つ目は自由貿易主義への反感である。これも共和党の伝統的政策路線とは異なり、世界を大いに戸迷わせている。それにTPPは中国の台頭への対抗という意味があり、トランプ氏も反中国を強調していただけに、最終的にどうするか注目される。

2.欧州
イ.  今年予想外だったもう1つの出来事はイギリスの国民投票でEU離脱派が勝利したことであった。 筆者はこの結果について、キャメロン首相の誤算だったことまで否定はしないが、これにもあまり驚かなかった。元々EUは仏独の協調体制を固定化することに狙いがあったもので、イギリスは留保付きの参加でしかなかったものである(したがってユーロには参加しなかった)。しかも、EU内の困難は、南欧すなわち仏、伊、ギリシャなどの規律の緩さと北欧すなわち独のかたくなさから生じており、双方ともに問題があるとの態度だった。
ロ.  しかし、イギリスのEU離脱の手続きについては、国民投票と議会の関係を巡って、憲法判断がどうなるかが残っている。さらに交渉が始まってもEU側がいいとこ取りは許さないとの態度であっても、イギリスにも自分と付き合えばこそのメリットをEU側に与えている面もあることから、交渉での利害調整が非常に複雑になるのは当然であろう。
ハ.  イギリスがEUを離れた場合、ロンドンが果してきた金融センターの役割はどこに行くのか。パリ、アムステルダム、フランクフルトの取り合いになるが、筆者はフランクフルトが有利と見る。ECBの本部がすでに存在すること、Bank Academy(今はFinance and Managementと改称)と呼ぶ大学を設置して英語で仕事のできる金融要員を作ってきたことなど実績が積みあがっているからである。

3.中国
イ.  中国の経済は、減税や公共投資など政策的な効果に支えられ、年末に向けて堅調さを増し、2016年のGDP成長率の目標(7%は上回らないが6.5%が下限)達成が確実な状況となっている。さらに、過剰生産による価格引下げゆえに輸出先の米国などからダンピングとの批判を浴びてきた石炭・鉄鋼も年末にかけて値上げに転じており、企業、物価を通じ国内的に物価上昇が心配されるほどの情勢にある。
ロ.  総じて堅調な中国経済に対しては、しばしば欧米系の識者から、いずれも政府介入の結果でしかなく、中国経済の将来のために真に必要な国有企業に対する税制など構造改革が先送りのままだとの批判が多く聞かれる。確かに政治的には、構造改革に積極的な李克強首相の路線に対して、漸進と安定のアプローチを取るべきだとする習近平主席の路線との間の溝は大きいようだ。この対立について筆者は、李首相の構造改革は中国の一党支配体制を危くするものであり、習主席の現実路線が支持されていると見ているが、その帰趨についてはまだ予断を許さないであろう。

4.日本
イ.  「デフレは貨幣現象」「中央銀行には貨幣価値を守る責任がある。だから貨幣価値の上昇(デフレ)を匡すことも責任である。」「デフレは、中央銀行が量的な金融緩和政策をとり、おカネを市中に ぎ込めば止められる。」「金融緩和をすれば、人々のインフレ期待が高まり、企業の投資や個人の消費が刺戟されるので物価は上昇する。」など、貨幣数量説や期待への働きかけ説に基づくリフレ派の議論は、今回のわが国のデフレに関する限り、悉く誤りであった。リフレ派は完全に敗北したと言わざるを得ない。
ロ.  本年最後の政府の経済情勢判断は「緩やかな回復」を基調としつつも、一部に「弱さが見られる」を「改善に遅れがある」に若干上方修正した。
 この背景には、トランプ氏当選を契機に生じた米経済好転の見方が影響して、家計の消費、企業の生産が上向いてきたことがあると思われる。
ハ.  この情勢の中で仮に物価の上昇がみられる場合、わが国の金融政策の効果だなどの議論はあってはならないと考えるし、ここはやはり、米国の経済動向の影響力の大きさこそ改めて顧みるべきものであろう。
ニ.  前文と裏腹のことであるが、トランプ氏の就任後の経済運営については、決して楽観は許されまい。仮に円安となろうが、これに乗じて輸出を増加させれば関税の引き上げなどで対応してくることはすでに同氏が明言しているところである。
(以上)


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